人々のライフスタイルや人生観が大きく変化しつつある昨今、これからの旅にはどのようなものが求められるでしょうか。日本各地の旅館を泊まり歩き、「日本 味の宿」の顧問を務める旅館のエキスパート・柏井壽氏に、アフターコロナの時代にあった「スマートな大人旅」の魅力、大人だから知っておきたい旅のマナーについて語っていただきました。
目 次
国内の選りすぐりの宿が揃った「日本 味の宿」とは

「日本 味の宿(https://yado-resort.com/ja/)」は、旅館のエキスパート・柏井壽氏を中心に『主人、女将の顔が見える宿』というコンセプトに賛同した宿が集まって2013年9月に発足したグループ。
「日本 味の宿」には、「味わい」の魅力を「食」「自然」「空間」といった形で表現している宿が加盟しています。主人や女将はそれぞれの「味わい」の魅力を守り続け、磨きを掛けており、その土地でしか味わえない特別な体験が叶います。

一休コンシェルジュでは、2019年に「日本旅館のエキスパート・柏井壽氏に聞く、上質な宿の条件(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/30299)」という記事で柏井氏にインタビューをさせていただきました。
コロナ禍を経た2022年、これからの旅の形はどのようなものになるのか?大人になった今、どんな旅をしていくのがいいのか?その答えを求め、「日本 味の宿」に加盟している「旅館 紅鮎」にて、柏井氏に再びお話を伺いました。
2022年、変わりつつある「旅のカタチ」
―今回は、大人だからできる旅の魅力というものを探っていきたいと思います。
早速ですが、コロナ禍を通して旅はどのように変化したと考えられますか?
旅の形が多様化してきました。「ワーケーション」もそうですが、ただ泊まるにとどまらず、働く・遊ぶ・ホテルに住むなど、色々なことをする場所になったほうが良いという考え方になってきました。
どういう客を迎えるかを明確に打ち出す宿が増えてきました。これまでは間口を広げようとしていたのが、今は逆に狭めている。客にピタッとはまればいいけど、はまらないと意味をなさない、ある意味で成熟してきているのかもしれません。

街の景色を感じる宿もあれば、自然の景色を売りにする宿もある。琵琶湖畔にある「旅館 紅鮎」の周りは温泉街が無いし、宿の他に行く所も楽しむ場所もない。逆に有馬の「陶泉 御所坊」に泊まると街をうろうろできる。そういうのが好きな人はそれで良いし、籠りたい人はこういう所に来る。旅館だけでなくホテルも形態として細分化してきています。
チェックインの時間ももっと自由でいいんじゃないかなと思いますね。18時くらいにチェックインで、チェックアウトが13時とか。逆に早朝チェックインができるホテルも出てきて、バリエーションが増えてもいいと思います。きめ細かいニーズに合わせる必要があるし、そういうのを探してたっていう人がいると思うんですよね。
「一休.com」さんのようなOTAが様々な宿や旅のスタイルを発信・提案して、客側と宿とのマッチングの場になってくれたらいいし、そうなっていくのではないでしょうか。
―「人生であと何回旅ができるか」と考える世代の方ほど、本当にしたい旅をする傾向にあるので、大人の旅のニーズはより細分化されている気がします。

宿の選び方の主流としては、最大公約数的に平均点の良い所を選びがちですが、そういう選び方は減ってくると思います。自由に移動が制限される今は、旅の機会が少なくなってくる。10回行ってた人が5~6回になってくると、1回の旅をいかに充実させるかを考え、宿選びから変わってくる。おそらく、惰性で旅していた部分もあると思うんです。「この日あいているから、とりあえずどこか評判がいいらしい宿へ行こう」みたいな。
それよりこういう旅がしたいという理由で宿選びをするようになる。特に、人生80年となった時に旅ができるのはあと10年位かなと思ったら、より吟味するようになりますよね。大人だからできる贅沢として、支払えるお金も増え、真ん中クラスの部屋から一番良い部屋を選ぶというのもありですね。1泊10万円が普通になってくるのではないでしょうか。
見直してみると旅館って安いなぁと。料理屋さんの値段がものすごく上がっている中で、旅館は据え置き。1泊5万円と聞くと高いように思うけれど、今や1食5万円のレストランは沢山あるから、そう考えると旅館のサービスは10万円でもおかしくないと。
コロナ禍で徹底した感染対策もされている中での滞在として考えると、改めてそう思いますね。
―ゆとりの旅で言えば、大人数ではなく少人数の旅もニーズが出てきています。

全体の流れとして、変わってきているのは間違いないですね。以前は4名定員という部屋が主流でしたが、今は2名が基本。一人客も受け入れる所が増えてきました。
大人だからできる旅としては、カウンターの食事処が、ある種シンボリックな形ですね。「日本 味の宿」でも、2人で旅をするならカウンターが良い、2人ずつで区切ったほうが良いとずっと言っていました。
「旅館 紅鮎」には、僕専用のカウンター席があるんです。他の席から見えない所で、窓側を向いている席。一人客は少しぽつんと見えるので、景色を見ているだけで様になります。
最近は密を避けるという意味で人数を減らし、対面よりもカウンターでの食事を推奨するなど、時代の方が近づいてきたと思いました。
―実際に一人旅はニーズがある一方、まだ受け入れてない宿も多く、宿での過ごし方が分からない人も多いようです。
旅というものが昔風のイメージなのかもしれないですね。結局、家から1歩出れば旅なので、何をするのかはその時に考えれば良いし、自分の中で楽しみを見つけてみては。
「旅館 紅鮎」で滞在すると宿内にいても、窓から琵琶湖の鳥や釣り人の姿に何かしらの発見があり、充分満足します。自分の家にはこんな景色は無いですし、それを楽しむだけでも旅の醍醐味になると思います。
人生の後半戦に寄り添ってくれる「日本 味の宿」の魅力
―10周年を迎える「日本 味の宿」ですが、どのような想いで創立されたのですか?
最初は「伊良湖温泉 和味の宿 角上楼」の上村さんから「皆で知恵を出し合って何かできないか」と発案されたことが発端です。企業経営でも良い宿がどんどん出てきて、スケールメリットを活かして成長されている。個人経営のような宿同士で、良い繋がりを生み出せないかと。

組織化する上での条件は「美味しいものが食べられる宿」。美味しいだけが味ではない、旅の味わいを感じられる小規模な宿で、民宿やオーベルジュがあってもいい。そして、主人と女将の顔が見える、昔ながらが根付いている宿。
入りたいと言ってくださる宿もありますが、数は無理に増やしておらず、1年に1~2軒増えて今は35軒ほどですね。
―これからの「日本 味の宿」は?

この2年、どこの宿も真剣に旅館のクオリティを上げてきていますので、もっとブラッシュアップしていきたいですね。特に料理は「味の宿」という名を冠しているので、さらに磨きをかけていきたい。料理写真も一覧で並ぶような見せ方から、一品ずつ綺麗に紹介して迫力を持たせたいですね。また、コミュニケーションは取らなくとも、主人や女将が必ずいるということですね。お客様の様子を絶えず把握し、すぐに対応できる状態にしておいてほしいですね。「日本 味の宿」の活動指針に賛同してくださる宿も多いので、最終的に50軒くらいになっていけば良いなと話しています。
―都道府県で1軒あると、宿巡りができて良いですね。特に、どんなシーンで利用してもらいたいとお考えですか?
一つは、家族ですら会えない状況が続いているので、家族同士の旅行に旅館を利用してもらえるといいなと思いますね。3世代が実家ではなく宿に集まって、密を避けながら思い出を作れる。家族の絆を見直すきっかけになれたらと思います。
もう一つは一人旅でしょうね。夫婦でも好みが違うし、最終的にやりたい旅をしようとすると一人旅になります。特に最近は「ワーケーション」が浸透してきているので、通信環境が良ければ在宅で仕事をするのと同様に宿で働いても良いですし、幅が広がりますよね。
―客間も勿論ですが、旅館にはほっと一息つける場所が沢山ありますよね。

宿にそういう場所を初めに作り始めたのが広島の「庭園の宿 石亭」ですね。全12室という部屋数に対して、ライブラリー、バー、他にも色々な面白い小部屋があって、随所に椅子が置かれている。部屋以外の居場所でバリエーションを作っていて、滞在が楽しいものになります。
日本の宿の醍醐味は、日本文化の醍醐味
―大人として旅をする中で、「今さら聞けない旅館のマナーを知りたい」という声を聞きます。和室の文化が薄れつつあるので、旅館的な場所にいって立ち居振る舞いが分からないという人も多くなりました。もし、スマートに振る舞えるコツがあれば教えて下さい。

こうしなければいけない、ということはないですが、次に人が入ってくる場所で、基本的に次の人が気持ちよく使えるようにすると考えれば、おのずと答えが分かってくると思います。
お風呂に入って上がる時も、次の人が使うと分かっていれば元の位置に戻しておく。玄関入って靴を揃える時に、旅館側はそのままでとおっしゃいますが、自分で揃える方が気持ちが良いし、すぐに誰かが入ってくることもあるので。
出発する際も、旅館の人が掃除に来た時に、もし自分が従業員だったらどう思うか?と考えると最低限に整えておこうと。
―人間同士のコミュニケーションということですね。
全くその通りですね。心付けというものもデリケートで、仲居さんに渡す人や旅館に渡す人それぞれいるため、どう扱うか難しいと考える宿もあります。
何度か行っている宿であれば、気持ちとして手土産をお渡ししてみるというのも良いかもしれないですね。特別扱いをしてほしいということではなくて、気持ちの問題なので。
―女将さんや主人とのご挨拶で、色々と話したいこともありつつ、表面の話になりがちですが……。
僕はありのままの感想を言うのが良いのではと思います。不快な所は、はっきり言っていいし。ただ、払う前に言うと値切っているように聞こえるから、支払ってからの方がスマートですね。
自分の期待と違ったと思うことは伝えないと、旅館も良くならないし、なるほどと気付くこともあると思います。良かれと思ってやっていることが客から見たら逆効果だったりもしますので、その場で教えてもらうことはありがたいと思います。逆にそれで親しくなったりもしますよ。
―最後に、柏井先生が今こういう旅したいな、という願望を。

贅沢したいなと思いますね。今までは1回の旅の予算を決めていましたが、1泊5万円以上の宿でも内容に見合うと感じたら行ってみようかなと思うようになってきました。ある意味、もっと贅沢な旅をしてみたいです。1回1回の満足度を上げて、今まで知らない世界を知っていきたいですね。

コロナ禍を経て、日常では得られない旅の素晴らしさ、人の旅への欲求や渇望の強さを痛感する昨今。今回のインタビューでは、枠組みや概念に捉われず、自由に旅をしてみても良いんだということを改めて感じました。日本の宿にはそれぞれの土地の文化や歴史に根づいた「味わい」があり、その良さに気付いた頃、大人になったと実感できるのかもしれません。日本の風土の魅力を改めて感じる、大人の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
※今回のインタビューは、感染対策に配慮の上「旅館 紅鮎(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/00002005/)」様で行わせていただきました。
*****************************************
柏井 壽
1952年京都市生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。歯科医・作家
京都関連、食関連、旅関連のエッセイ、小説を多数執筆。
代表作に「おひとり京都の愉しみ(光文社新書)」「日本百名宿(光文社文庫)」「ひみつの京都(SB新書)などのエッセイ集、「鴨川食堂(小学館)」「祇園白川小堀商店(新潮社)」「うみちか旅館(小学館)」などの小説がある。
最新エッセイは「しずかな京都(SB新書)、最新小説は「鴨川食堂しあわせ(小学館)」。
*****************************************
【日本 味の宿 × 一休.com 春から夏のスペシャルプランのご案内】
春から夏にかけての特別プランをご用意いただきました!
その土地の文化や伝統の魅力をぜひ味わってみてください。
▼詳細はこちら▼
https://prdikyuconcierge.ikyu.com/special/01/ajinoyado_2022/












