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【対談】作家・柏井壽氏×「あらや滔々庵」18代目・永井隆幸氏が語る、日本旅館ならではの魅力
インタビュー

【対談】作家・柏井壽氏×「あらや滔々庵」18代目・永井隆幸氏が語る、日本旅館ならではの魅力

この度「一休コンシェルジュ」では、日本旅館ならではの奥深き魅力を掘り下げます。日本各地の旅館を泊まり歩き、「日本 味の宿」の顧問を務める旅館のエキスパート・柏井壽氏と、18代続く加賀の老舗旅館「あらや滔々庵」主人の永井隆幸氏に、その土地の歴史や文化を味わう日本旅館ならではの特別な体験について語っていただきました。

国内でも厳選された宿が集った「日本 味の宿」の魅力とは

(強羅花扇)

「日本 味の宿(https://yado-resort.com/ja/)」は、旅館のエキスパート・柏井壽氏を中心に“主人、女将の顔が見える宿”というコンセプトに賛同した宿が集い、2013年9月に発足したグループ。「日本 味の宿」には、「味わい」の魅力を「食」「自然」「空間」といった形で表現する宿が加盟しています。主人や女将はそれぞれの「味わい」の魅力を守り続け、磨きを掛けており、その土地でしか味わえない特別な体験が叶います。

(旅館 紅鮎)

一休コンシェルジュでは、2019年に「日本旅館のエキスパート・柏井壽氏に聞く、上質な宿の条件(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/30299)」、2022年に「旅のプロ・柏井壽氏に聞く、大人だからできる旅の醍醐味(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/concierge/74371)」という記事で柏井氏にインタビューをさせていただきました。

第3弾となる今回のテーマは「日本旅館が持つ魅力」。八百余年続く山代温泉の老舗旅館「あらや滔々庵」がどのように文化や伝統を守り、あるいは進化を重ねているのか。そして、何百年と続く歴史ある宿での滞在が現代人にとってどのような心情をもたらすのか、対談を通してお伝えします。

18代目で宿名を変更。未来を見据えた老舗旅館の決意

―「あらや滔々庵」は永井さんで18代目という由緒ある宿ですが、作家・柏井先生とのゆかりも深いそうですね。

永井氏(以下永井): 1990年代半ば以降、私が26歳で代替わりする前からのご縁で、もう30年近くになりますね。実は「あらや滔々庵」という名前に変更したきっかけも、名付け親は柏井先生。

柏井氏(以下柏井):初めて宿に泊めていただいてお風呂に入ったときに、本当に“滔々”と湧き出るお湯の感覚をダイレクトに感じ、これはすごいなと思いました。
ちょうど彼から代替わりするという話を聞いて、17代続いてきて18代目を継ぐとはいえ、守るだけではなく創業するような気持ちで、伝統を守りながら自分なりのスタイルを少しずつプラスしていくことが長く続く秘訣だよと伝えました。思い切って元々の屋号「あらや」に「滔々庵」の名をプラスしたらどうだろうと。
温泉が潤沢に流れているという意味もありますが、発想やアイデアが絶えず入れ替わり、新陳代謝が起きるという意味合いも込めて提案しました。

永井:1990年代後半の当時は、まだ今ほどお客様が温泉に対して重きを置いていませんでした。旅館に求めるものは、豪華さやお料理の見た目やインパクトという時代に、柏井先生から「温泉をもっと大切に、温泉のありがたさをお客様にお伝えしていかなきゃならない」とお名前を提案していただきました。
この宿の温泉は先代がこれまで守ってきたものでしたので、宿としても、地域としても後世に繋げていきたいと思い、二つ返事で宿名を改めました。これからの宿の方向性もしっかり決めていきたかったですし、改めて本当にありがたく感じます。

柏井:名前が変わることで自分の宿という意識が芽生えるでしょうし、創業者的な発想で宿作りをしてほしいと思いました。彼は思い切りがいいんですよね。やっぱり長く続いて成功してるところって大体みんな思い切りがいい。守るべきことはあっても、何かしら捨てるものは捨て、新しく自分の風を吹かせることが、宿を続けるうえで一番大事だと思う。30年前に話をしたときから、そういう空気をすごく感じたので、彼はやるなと思いました。

―今お話を伺っている場所も、もとはバーラウンジ「有栖川山荘」だったところを離れの客室に改装されたということで、新旧の融合を感じます。

(バーラウンジ「有栖川山荘」営業中の様子)

柏井:バーラウンジ「有栖川山荘」は雰囲気があって、離れの客室にすると聞いてびっくりしたんですが、今日来たらこれまでのイメージを全く覆していて、ものすごく新鮮に感じました。思い切りがいいですね。

永井:この場所は元々、明治初期に建てられた木造の離れでしたが、築百数十年を経過し、襖と障子だけでで今にも倒れそうな感じでずっと使われていなかったんです。

2000年頃に地元の設計士さんと大工さんのおかげで雰囲気を残しバーとして営業を始めました。ただ、コロナ禍を経て、これから求められるものを考えた時に、離れの客室を作ろうと。

柏井:何かを変えれば、お客さんから「前の方が良かった」と言われることもあります。もちろんご意見を聞くことは大事だけど、宿の未来、経営を考えたら思い切ることも必要。新しい宿が次々とできてくる中で、良いものは残しつつ、新しいことを始めるという姿勢が宿の魅力の一つになると思います。

永井:お客様もバーが良かったとおっしゃる方も沢山いらっしゃるので、学ばせていただいております。一方で、新しいデザイナーズホテルや素晴らしい施設が沢山オープンされる中、私どもの宿に来ていただくためには、常に宿なりの考え方を踏襲しながらも「あらや滔々庵」ならではの個性や雰囲気をお客様に感じていただきたいということが頭の中にあります。

伝統と歴史を誇る日本旅館ならではの、現代流のおもてなし

―「あらや滔々庵」は北大路魯山人と縁の深い宿としても知られていますが、宿のいたるところに現代アートを取り入れている点も興味深いですね。

(「暁烏衝立」)

永井:北大路魯山人は九谷焼の名窯・初代須田菁華との出会いがきっかけで、当時は福田大観と名乗りほぼ無名の頃に山代へ頻繁に通い、薫陶を受けていたそうです。
魯山人の作品は、客室内の書や、時にはお料理の器としてお出しすることがあります。また、作品を通じて土地の魅力を感じていただきたいという気持ちがありますので、なるべく地元の作家さんの器やゆかりのある方々にお願いしてアート作品を作っていただくことが非常に多いです。
伝統的なものもあれば、少し宿には似つかわしくないようなものもあるかもしれないのですが、やはり魯山人という先見性のある稀代の芸術家の存在がありましたので、そこも魅力の一つととらえています。

(「御陣の間(おちんのま)」)

柏井:加賀百万石の歴史や伝統が背景にあるということが大きいと思うんですよね。文化を大事にする意識やセンスがあるから、おそらく魯山人も惹かれてここに来たんだと。
また、加賀ならではの赤の使い方、色彩感覚ですね。「御陣の間(おちんのま)」のベンガラの壁はもう独特の空気感で、京都にはない日本文化をうまく活かしている。

永井さんはそれにプラスして、代々受け継がれてきた「御陣の間(おちんのま)」をベッドルームにして、2段のお風呂を作るなど、うまく足し算されていますね。元々あったものに足していくことによってよりその前のものが浮かび上がり、光ってくるということが良く計算されていると思います。

―「あらや滔々庵」の設えを常に綺麗に保つため定期的に休館され、メンテナンスをされていると女将からも伺いました。永井様が宿作りにおいて工夫されている点をお聞かせください。

永井:一度に設備投資はできないので、少しずつ回数を重ねています。また、これまで積み重ね、培ってきた見えない資産と言いますか、歴史や温泉、料理やスタッフへの教育など、ソフトをいかに活かしていくか。私共だけでなく「日本 味の宿」のメンバーの皆様もそうですし、全国の旅館の皆様が感じていらっしゃると思いますが、ハードだけではなく旅館の持つソフトな魅力を磨いていくよう心がけております。

柏井:伝統的な日本旅館のベースにあるのは“1泊2食の滞在のもてなし”。チェックインしてお着き菓子があり、浴衣や布団が整えられ、お風呂で和み、夕食でもてなされる。翌日朝食をいただいて最後のお見送りに至るまでの一連の流れ。
新しい旅館の場合はブツ切りのサービスになりがちで、どんどんホテル寄りになってしまって、食事も切り離しているところが増えました。それはそれで新しい流れですが、“伝統的な日本旅館”とは滞在中ずっと途切れないおもてなしが一番のポイント。
それにはまず人が必要で、いかに育てるかが重要です。経営者的な感覚で効率を考えると分業制やタスクマネジメントを重視する傾向もありますが、本来の伝統的な日本旅館は仲居さんという存在が全てのおもてなしをしていく。それを連綿と続けてきている強みがありますね。

永井:旅館に入ってしまえば、あとはもう身を委ねて何も考えずに翌朝までゆっくりお過ごしいただける。私たちの宿でのおもてなしはそういう形をとらせていただいております。お客様が求めることも時代の移り変わりと共に当然さまざまになってきたのですが、それぞれの宿の役割があることをしっかりとお伝えするという点も、非常に大事だと思っております。お越しいただいたお客様には、日本旅館でのんびりと身を委ねていただいて、滞在をお喜びいただけることが非常に嬉しいですね。

行かないと味わえない旅館ならではの美食

―旅館での楽しみの一つが料理ですが、柏井先生が「あらや滔々庵」で食べたい!と思う名物は?

柏井:石川と言えば海の幸、特に日本人にとって一番のご馳走である、カニがやはり筆頭ですね。特にカニは旬がはっきりしているから良い。11月7日前後から解禁のニュースを聞くと、そわそわして行きたいと待ち焦がれる感覚がありますね。もちろん美味しいものは他にも沢山あるので、シーズンごとにそれぞれの旬を楽しむには日本海の幸のイメージは圧倒的に強いですね。
そこで活きてくるのがやはり器。食材、料理の技術、器が三位一体となることによって、美食が極まってくることをここに来ると改めて実感する。器によってより味わいが濃くなるっていうのも大きいポイントなんですよ。

永井:ありがたいことに、カニが解禁されると週末と年末年始は非常に人気で、毎年お越しいただくお客様が多く、翌年の予約を入れて帰られますね。もともとカニの季節は関西のお客様が多かったんですけれども、新幹線の開業後は、関東からのお客様も非常に多くお運びいただいております。年々漁獲量が減り、人気もあって希少になってきていますので、貴重なカニをしっかり仕入れ、いい状態でお客様にご提供したいと思います。

献立は料理長と一緒に季節食材を取り入れて、あまり奇をてらうようなことはせずにバランスを考えています。お客様からは少し古い料理に見えるかもしれませんが、日本においてそういうご提供の仕方をする場所も少なくなってきましたので。器は地元の作家さんを始め、輪島や山中の漆器などでお出ししています。なかなか取り扱いが大変ですが、昔ならではの産業として伝統を守り、今の時代にご提供するということも我々ならではのサービスの一つだと思っております。

柏井:料理はセンスなので、お客さんがどう感じるかっていうことですね。あまり変えすぎても下手なイノベーティブみたいになってしまうと踏み外してしまう。ただ何か少し新しく見えるよう、日本旅館でも今の人に合わせていくセンスが必要で、見極めが難しい。もっとも、それを全部カバーしてくれるのは器だと思います。器を取り扱うには経験が必要なので、板場での教育ということも大事ですね。

コロナ禍を経て、現代人が求める宿のスタイルとは

―最後に、コロナ禍という世界的な転換期を経て、現代人と言いますか、日本人あるいは日本を訪れる人たちが求める宿のスタイルについてお聞かせください。

永井:コロナ禍を経て、宿の本質に帰ったといいますか、宿のあるべき姿が求められてくると思います。私共温泉旅館であれば、温泉、お食事、お部屋、おもてなしの四つの柱が非常に大事で、高い次元でバランスを取っていきたいと思っております。宿のあり方として、そういう本質を大事にしていきたいと考えております。

柏井:旅館に限らず全ての人々にとって、コロナ禍でどうするか、収まったらどうするかを考え、リセットボタンを押すチャンスだったと思うんですよ。3年前はインバウンド全盛で観光公害という言葉も生まれ、あのままいけばどうなっていたかと思うとちょっと怖い。この3年間に旅館の手入れや、気がつかなかった汚れを磨いたという話もよく聞きました。
永井さんがバーを離れに改装したのもそうですが、それも一回立ち止まる機会があって、自分たちの良さに気がついてもっと伸ばしていこうという流れになったと思います。
また、旅館でも時々は休業日を作る施設が増えました。適度に休んで、料理ないし施設内、教育などを振り返ってみるという。

永井:多分コロナがなければ、このままバーをやっていたかもしれません。ただ、その場合はこの空間も生まれなかったので、ポジティブに考えたいと。ハードはもちろんソフトを見直すという点が、全てのことに繋がってくると感じますので、柏井先生がおっしゃっていたことは私達とすごくリンクするなと改めて思いました。

柏井:「旅ができないことはこんなにしんどいのか」と日々感じてましたから、旅を取り戻したときに改めて良さを実感できましたね。コロナ渦が収まって外出しやすくなったときに、金額が安いから行くのではなく、1回1回の旅を大事にしたいと感じましたし、旅館側もそういうアピールをしてもいいと思いますね。

人々のニーズが多様化する中でも、日本人が持つ繊細な美意識や心遣いが色濃く残る日本旅館ならではの良さは、土地の文化や歴史に根づいた「味わい」としてずっと残ってほしいと改めて感じました。コロナ禍を経て、日本の風土の魅力を改めて感じる、大人の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。

※今回のインタビューは、感染対策に配慮の上あらや滔々庵(https://prdikyuconcierge.ikyu.com/00001580/)」様で行わせていただきました。

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柏井 壽

1952年京都市生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。歯科医・作家
京都関連、食関連、旅関連のエッセイ、小説を多数執筆。
代表作に「おひとり京都の愉しみ(光文社新書)」「日本百名宿(光文社文庫)」「ひみつの京都(SB新書)などのエッセイ集、「鴨川食堂(小学館)」「祇園白川小堀商店(新潮社)」「うみちか旅館(小学館)」などの小説がある。
最新エッセイは「しずかな京都(SB新書)、最新小説は「鴨川食堂しあわせ(小学館)」。

永井 隆幸

1972年 石川県加賀市生まれ
1994年 早稲田大学商学部卒
1995年 YMCA国際ホテル専門学校ホテル専攻科卒
1995年 家業を継ぐため宿に戻る
1998年 「あらや滔々庵」代表に就任 現在に至る

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